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ミニスカ宇宙海賊 5巻まで

笹本祐一 (朝日新聞出版 朝日ノベルズ)

まあまあ(10点)
2015年8月9日
ひっちぃ

母子家庭で育ってお嬢様高校で学んでいた加藤茉莉香だったが、あるとき父親の死と宇宙海賊船長の継承を告げられる。SF小説。

2012年に「モーレツ宇宙海賊(パイレーツ)」という名前でアニメ化されたのを見てそれなりに面白いなと思い、結構世界観とかキャラクター設定が良かったのでこれは原作が超面白いパターンかと期待に胸を躍らせて読んでみたら大したことがなくてガッカリした。

面白いのは、一人の女の子が突然宇宙海賊の船長になって個性的な海賊たちと一緒に冒険するところ。宇宙海賊といっても仕事の多くは客船相手のアトラクション(といっても客船会社だけでなく保険会社とも組んで実際に軽く略奪もする)だとか、ヒロインの所属する学園のヨット部の面々まで海賊行為に協力するハメになるところや、他星系の王女様がメンバーに加わったりするところ。

でもキャラクターと物語が浅い。まずヒロインに魅力がない。こいつはどうしたいんだろう。目の前の事態を収拾するために必死になっているのは一応かわいいんだけど、自分が何をやりたいのかというのがまったく描かれない。彼女のアイデンティティの一つはヨット部に属していることなのだけど、自分一人さっさと訓練を終わらせてバイトに向かってしまう。じゃあその喫茶店のバイトが気に入っているのかというと序盤しか出てこない。勉強が得意だとか運動神経があるとか交友関係が広いとかいうのもなし。ただ、親譲りなのか決断力や判断力は高い。

1巻では宇宙海賊船長引き継ぎ騒動のほか、ヨット部の練習航海のさなかに謎の敵から攻撃を受けて自分たちだけで反撃する話が描かれる。この世界の海賊というのは免許がいるのだけど、船長を自分の子にしか引き継げない。海賊免許自体が時代の遺物的な利権の一種なので、色んな勢力から付け狙われる。そこでヒロインの父親が海賊をしていた海賊船「弁天丸」からヒロインの観察と警護のためにイケメン航海士ケインがヨット部の顧問に、船医で年齢不詳の女医ミーサが保険医として学園に潜入してくる。そして同じタイミングで交換留学生として謎の女子学生チアキも入ってきて怪しい動きをするのだった。

良くも悪くも割と本格的なSF小説なのであんまり萌えない。連絡艇が母艦に着陸するシーンの描写とか丁寧にやる一方で、人物同士のドラマはあっさり片づけられてしまう。ヒロインの父親の足跡をたどりたい気持ちとか、母子家庭で育ててもらった母親に対する気持ちが描かれないのはまあいいとして(?)、同級生や同僚(部下)とのやりとりが希薄で、活動や仕事の話しかしないので、キャラに対する愛着が持ちにくかった。

良かったのは王女グリューエル。もうその存在自体が魅力的だった。本物の王族が学園や海賊船の中にいて、その美貌と気品に周りがみんな敬う中で、尊大にならずに接してくるという鉄板の王族キャラ。海賊をやりたいと言い出すのをヒロインが抑えたり、たまに明晰な頭脳で物騒な考えを披露して周囲の肝を冷やさせる。でもこいつもなんか消化不良で、2巻ではゲストヒロインとして悲壮な決意を持って母星や自らの運命と戦うのは良かったのだけど、色々描写が足りなくて物語にもキャラにも入っていけなかった。2巻のあのデバイスが一体なぜ騒動の元なのか普通に読んで全部理解できる人ってどのくらいいるんだろう。っていうか自分はこれそんなに大した問題じゃないと思うんだけど…。もし彼女がこの問題に対して深刻に思っているのであれば、優秀すぎる自分に対して何かしらの引け目が性格に反映されていないとおかしいと思う。

いつ面白くなるのだろうと期待しながら読み進めたけれど、一向に面白くならないので読むのをやめることにした。SFの細かい設定が好きな人なら楽しく読めるのかも。色んなセンサーやソナーを駆使した情報戦や電子戦のディテールは、こういうのが好きな人にとっては楽しめるんじゃないかと思う。自分も割と好きなんだけど、さすがにそれだけじゃ読む気が失せた。

ところでアニメ版のヒロインの声の役を小松未可子という声優がやっているのだけど、あまりに地味なので○○○なんじゃないかと思っていた。どうやらモデル出身らしいし。でもこの人は少年の声がめちゃうまいことにあとで気付いた。今期は「青春×機関銃」というBLの微妙なアニメの主人公の声をやっているのだけど、この声を聞きたくてずっと視聴を続けているんじゃないかとさえ思ってしまう(話もちょっと面白い)。適性って大きいんだなと思った。

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