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となりの怪物くん

ろびこ (講談社 KCデザート)

傑作(30点)
2014年6月1日
ひっちぃ

ガリ勉で淡泊な高校生の少女・水谷雫は、いままであまり他人に興味を持たずに生きてきたが、となりの席の不登校児・吉田ハルにプリントを届けに行ったのをきっかけに、不器用な彼に影響されて感情を揺り動かされていく。少女マンガ。

2012年にアニメ化されたのを見て面白かったのでいつか原作を読もうと思っていた。アニメの原作再現率およびカバー率は高いので、原作を読んで新たに楽しめた部分は思ったほどなかったけれど、十分楽しめた。

キャッチコピーが「新感覚ラブコメ」と銘打ってあるのは言い得て妙で、ぶっちゃけ新感覚というより「わけがわからない」と言ってしまってもいいように思う。話の筋を簡単にまとめようとするとちょっと難しい。

題に「怪物くん」とあるように、となりの席の吉田ハルくんはとても喧嘩っぱやくて凶暴なのだった。こいつは野生児で天然で世間ずれしていない。長身でイケメンなのでよく絡まれてトラブルになり、やられたら過剰にやり返して問題になる。友達もいない。でも人と仲良くしたいと思っているので、友達づらしたやつらにつけこまれていいように使われていた。その現場を見たヒロインの水谷雫が、どうしていいかよく分からないまま彼のために行動する。

次の日から水谷雫はハルにつきまとわれて好意をぶつけられるようになる。しかし水谷雫はいままでそんな経験がなかったので戸惑う。一方のハルも不器用なのでどうやって自分の感情を行動に移していけばいいのか分からない。そうしているうちに問題は起こり、気持ちはスレ違い、二人は迷走していく。

うーん、うまく説明できただろうか。でもなんかちょっと違うような。

ヒロインの水谷雫がクールな無表情で正論を言って周りをあきれさせたり逆に尊敬されたりするのが面白い。かわいげのあるおさげ髪をしていて、ファッションとか全然垢抜けていないけれど、本人は普通にしているつもりでいる。母親がやり手の弁護士であまり家に帰ってこないため、ほぼ無職の父親やおとなしい弟のために家のこともしっかりやっている。弟のことを彼女なりに溺愛している。

一方のハルは家庭事情が複雑で、作中徐々に明かされていく。とりあえず兄の優山のことが苦手で逃げ回っている。両親とは離れて、知り合いのみっちゃんというバッティングセンターの店長の家に居候している。この作品は学園ものではあるのだけど、主人公たちが通う松楊高校は主にトラブルが起きる場所として描かれていて、舞台の中心はたぶんこのバッティングセンターになっている。ハルはもともと中高一貫の海明学院にいたのだけど、事件を起こして転校していて、その海明学院の生徒たちもこのバッティングセンターに頻繁に来ている。

で、第二のヒロインといっていい夏目あさ子がバッティングセンターの店長みっちゃんに惚れる。この夏目あさ子はとてもかわいい外見をしているのだけど、そのせいでいろんな男から告白されまくり、女から嫌われまくり男に対しても警戒心が強く、孤独な日常を送っていた。そこへ、そんなことにまったく頓着しない水谷雫が現れ、冷たい態度ながらも相手をしてくれるので親友だと一方的に思って距離を詰めようとする。こいつが痛すぎてかわいい。学校では友達ができないのでネットの世界に逃げ込んで、ゴルベーザあさこなどと名乗ってみんなからちやほやされるが、対人関係の経験値が少ないせいか定期的に破綻して名前を変えてやりなおそうとする。

そんな夏目あさ子のことを、人気者でチビの野球部員ササケンこと佐々原宗平が気に掛けるようになる。こいつは対人関係の経験値がありすぎて、みんなと適度な距離を保って広く浅く交友関係を持っていて、なかなか人の目が行き届かないところにも目が行っている。かつて友達と決裂した経験が彼をそうさせている。そんなササケンだからこそ、対人関係に悩む夏目あさ子のことが気になってしょうがなくなってくる。一方の夏目あさ子のほうは、友達が多くて楽しくやっているササケンのことがうらやましくてしょうがないのだけど、かつてのトラウマで男というものが嫌いなのでなかなか彼の好意を素直に受け止められない。

ヒロインの水谷雫は進学塾に通っていて、そこでハルのもといた学校のヤマケンこと山口賢二とよく一緒になる。こいつはイケメンで頭脳明晰でハルと違って世慣れているためか、水谷雫の変人っぷりを最初はバカにしていたけれど、徐々に彼女の個性に強さに引かれていく。一方の水谷雫も彼とは価値観が近くて協力しあえる間柄だろうと思って親しくしていく。それを見て独占欲の強いハルがキレる。そんなハルを見て水谷雫は、通常であればハルの自分への愛情の強さを知って悪からず思うところであるが、論理的で人の機微を知らない水谷雫はハルの子供っぽさにあきれる。

ヤマケンには伊予という妹がいて、こいつが物語の後半で主人公たちの学校のほうに入学してくるのが面白い。こいつは切れ目の美人なのだけどわがままな妹キャラで、なにかと主人公たちを引っ掻き回す。でも普段は兄のヤマケンとその悪友連中となんだかんだでつるんでいて、その中では女とも思われない雑な扱いを受けている。

この作品の登場人物たちは、対人スキルに乏しくてもがいていたり、今はうまくやっているけれど過去の傷がうずいていたり、高い能力を持っているけれど思うようにいかなかったりしていて、なにかしら苦しんでいてそれが見ていてとても魅力的だった。

でもハルが自分にとって結局不可解なままだったなあ。この作品の題から言えば主役、実質的には二番目の主人公のはずのこいつが、あまりに異質すぎてよくわからなかった。一応物語の終盤でこいつの人格形成について説明したエピソードがあるのだけど、やっぱりこいつのスペックが高すぎてまったく共感できなかった。イケメンで力が強くて頭もよく、不登校なのにガリ勉の水谷雫より学力が高い。そんなこいつがなんだかんだでこの物語の中心にいるので、物語全体がなんだかまとまりのないものに感じられてならなかった。なんかこのキャラはおかしいと思う。怪物だから?こいつには常識がないという大きな欠点があって、そのせいで暴力をふるって学校のみんながサーッと引いていく描写はとてもリアルなんだけど、それでもこいつの存在自体が自分にはどうしてもリアルに思えなかった。

というわけで、この作品の続きとかサイドストーリーよりも、同じ作者による新しい話を期待する気持ちの方が強くなってしまった。

ちょっと最後に「珠に傷」の傷のほうを主張してしまったけれど、この作品が珠であることは疑いないと思う。いろんな点で普通のラブコメ作品とは違うこの作品は、王道な作品が好きな人にはちょっとわけわからなく思ってしまうかもしれないけれど、変わった設定でも十分な説得力でラブコメしているので多くの人が楽しめると思う。

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