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読むクスリ

上前淳一郎 (文春文庫)

最高(50点)
2011年2月18日
ひっちぃ

企業が生み出したヒット商品の意外な舞台裏とか、接客業でこんな変わったことがありましたなど、ちょっとした小話をかき集めた「企業版ちょっといい話」。

私の愛読書である週刊文春に連載されていたが、もうだいぶ前に連載は終わっていて、文庫化されたものが一冊105円でブックオフに沢山並んでいたので、三十数冊ほどあるみたいだけど気長に集めて読むことにした。作者は筑紫哲也と仲が良かったという元朝日新聞記者の上前淳一郎というノンフィクション作家。

第一話目はNEC(日本電気)が初めてパソコンを売り出したときの話。当時社内の誰もがパソコンなんて売れないと思っていた。でもマイコンチップを大量に売らなければならない。そこでなんと営業経験のない一人の技術者が部長に選ばれ、半期に一億売り上げろと言われる。最初あまりに売れなくてストレスで入院するほどだったが、アメリカを視察してアップルやマイクロソフトの黎明期を見て、日本でもパソコンを売ることを考え付いた。しかし部品屋なのでどうやって完成品を作ればいいのか分からない。そこで思い切って部品を袋に入れて勝手に組み立てろ(!)という形で売り出した。これがコンピュータマニアなら知っているTK80というキットだ。昭和51年当時の値段で8万8千5百円もしたが、これがなんと月に二千台と売れ、屋根裏で内職のように作っていたのが追いつかなくなったそうだ。そのうちなんとサードパーティが現れ、電源はキットに付属していなかったのでTK80で使える電源をそれと銘打って売り出すメーカーが出てきたり、TK80で使えるソフトを作って提供するとこが出てきたりした。そこからいよいよ完成品を作って売り出すものの大失敗して一波乱あってと話は続く。

このNECの話はちょっと長めで、他の話はもっと短くてあっさりした話が多い。第二話目は日本マクドナルドのマニュアルとか出店計画の話で、今度はメーカーではなくサービス業の話になる。

ここ最近テレビ東京の「カンブリア宮殿」や単行本や新書などで企業の成功話を扱った内容のものが取り上げられることが多くて、どれも内容はそれなりに面白くはあるのだけど、成功者の放つ空気がうざくてしょうがない。そんだけ人脈あればそりゃ成功するだろとか、どんだけ従業員を洗脳してるんだとか、お前はたまたま成功したかもしれないけどそれは単に運が良かっただけだろとか、昔ならそれで成功したかもしれないけどいまそんなこと始めても大企業に潰されるだけだろとか、もういろんな突込みが脳内をぐるぐる渦巻いてきてイライラしてくる。

その点本書は、ぜんぜん気取ったところがない。目線が下の方にある。とても謙虚だ。経営者も出てくるけれど、出てくるのは主に現場の人たち。自分の力で成功を勝ち取ったのだと言っている人はいない。

なんか高度成長期がちょっとうらやましくも思えてくる。無理難題を押し付けられてしゃにむに働いたり、外国に飛ばされて体当たりで仕事をしたりと、当時の人たちはすごく大変だったのだろうけど、その分日本は発展して豊かになった。泣かされる中小企業とか、好景気が及ばない日影の仕事もあっただろうけど、それは見ないことにして。

でも今の日本にもどこかフロンティアがあるかもしれない。この本を読んだら、何か新しい商売を始めてみたくなる。まあ青木雄二の本を読んだら小さい会社をやっていくのは毎日毎日資金繰りのことばかり考えて暮らさなければならなくてとても大変そうなので一気に萎えてしまうのだけど。それと、日本でいまベンチャーが育ちにくいのは、大企業がニッチなとこにも入ってきてキッチリ仕事をしてしまうからだ、と言っている人が2ちゃんねるにいてそのとおりだとも思う。ベンチャー起こす前にまず大手に入って人脈作らないといけないし。

とにかく密度が濃いので、普段本を読まないような人でも少しずつ読んで楽しめると思う。企業の話なんて興味ないよという人にとってみれば全然面白くないかもしれないけど、なにかしら自分にとって身近な企業の話があるので、読んでいけば自然と興味を引かれると思う。全然知られていない企業についての話なんかも知れて面白い。やたら説教くさいビジネス本を読むよりずっといい。一巻から読む必要はないので適当に買って読んでみることを勧める。

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