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ヒトのオスは飼わないの?

米原万理 (文春文庫)

傑作(30点)
2009年9月13日
ひっちぃ

ロシア語通訳で作家の米原万理が、あるときからあるときまで飼っていたペットの犬や猫たちとの出会いや生活を語ったエッセイというかドラマ仕立ての記録。国際会議場の庭で出会った子猫を飼い始めたり、不思議ななりゆきで出会った妙に利口な犬を飼い出す一方で、放し飼いにしていていなくなったネコ、激しい雷の夜にどこかへいってしまった犬など。

こんなにセンスが良くて面白い題名から内容を想像すると、この作品は軽妙で洗練された歯切れの良いエッセイ集かと思ってしまうが、読んでびっくり、ペットに対する深い愛が、愛犬愛猫のためならなりふりかまわずなんでもするといった、こう言っちゃなんだけどドロドロと醜いまでにみじみ出ていて圧倒された。装丁はコミカルな犬が表紙になっていて、内容と全然違う。

なぜあのとき気をつけなかったのだろう、と後悔に後悔を重ねた思いをそのまま文章にしている。ネコの社会の個体関係について過剰なまでに心配している気持ちも書き起こしている。これ普通の人が書いたらグズグズしてうっとうしくて読めたものじゃないと思うけど、この人が書くとサバサバした文体と相殺されるのか不思議と不快じゃない。

ペットの飼い主が自分のペットのことを語っても他人からしたらそんなに面白くないのが普通だと思うのだけど、たびたび事件が起きて展開に目が離せなくなる。ここであらすじを書いても多分ヘエとしか思わないだろうけど、作者の切羽詰った感情がこもった緊迫感のある文章でとてもドラマチックに感じた。まあ逆に言えば、これといって特別な話が語られるわけではないので、そういうのは期待してはいけない。

ネコの言葉が分かるというロシアのネコおばさんの話は本当なのかどうか怪しいのだけど、淡々とした文章でサラリと書かれているのを読むと不思議と真実味が感じられてしまった。そのほかペットに関する不思議な出来事もいくつか語られている。この作者なら多少吹かしていないとも言えないのだけど、なんだか信じられるような気がしてしまう。

読んでからそれなりに経ってしまったのであんまり具体的な内容は詳しくは思い出せないのだけど、飼い猫を置いて一週間家族旅行をした一家がいて、その猫が人間不信になって家を出て行ってしまったという話が紹介されていて、とても印象に残っていたのでよく覚えている。私も猫を飼っているのでよく分かるのだけど、猫はハッキリ分かるほどイジケる。気に入らないことがあると、何もない壁に向かってじっと座ったり、意味もなくややこしい場所に入ろうとしたりする。

暗くて重くて真剣な話は読みたくないという人以外には普通に勧められる。特に、犬猫を飼っている人、あるいはこれから飼おうとしている人には、読んでもらって反応を見てみたいような気もする。

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