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クビキリサイクル

西尾維新 (講談社NOBELS)

最高(50点)
2007年12月14日
ひっちぃ

大財閥の一家から絶縁されて絶海の孤島に隔離されている女主人が、世界中から色んな天才を集めて開いているサロンに、主人公の大学生の青年とその幼馴染の天才技術者の少女が招かれるが、そこには首切り連続殺人が待っていた。人気ライトノベルの戯言シリーズの一作目。

結構分厚い新書だがこれもライトノベルらしい。作者は西尾維新という人でかなり人気があるらしい。ジャンルで言えば間違いなくミステリーだろう。

サブタイトルにあるように主人公は戯言遣いという色々想像をめぐらせて物語を語る語り部らしい。その知的な独白にのっけから引き込まれる。とても刺激的な知的レベルの高い語りは絶品だ。たとえば。

「人の生き方ってのは、要するに二種類しかない。自分の価値の低さを認識しながら生きていくか、世界の価値の低さを認識しながら生きていくのか。その二種類だ。…」

かと思うと幼馴染の少女の萌え要素全開の描写がかぶさり、このへんがライトノベルなんだろうなと思う。私は楽しめたが、普通のミステリーを読んでいる人は拒否反応を起こしそうなところだ。

序盤は主人公の大学生の青年が、島に集まった個性的な天才たちと魅力的な会話を繰り広げることで展開される。天才数学者の園山赤音との問答、ウソかマコトかテレパス系の超能力者の姫菜真姫に醜い心を罵られたり、天才画家の伊吹かなみにそっけなくされたりする。

こうして一通りの人物紹介が済んだところへ唐突に殺人事件が起こる。

これはすごく良質なミステリーなんだろうな。登場人物の魅力で一気に物語に引き込まれ、謎だらけの展開にグイグイと読み進む。

ただ、この結末はどう贔屓目に見てもお粗末だよなあと思う。ひっくり返しすぎ。結局あのときのあの人の言葉や態度はなんだったんだろう、と思い返すのも馬鹿馬鹿しくなる。現実ってのはこんなものなのかもしれないけど、物語には物語なりのリアリティってのものを無視してはいけないと思う。

殺人犯の物語が理解不能なところとか、主人公の青年と幼馴染の天才技術者の少女との関係が感情だけで盛り上がってこの巻では結局ほとんど語られないところとか。

にしてもこの作品の最大のトリック、タイトルまで使ったネタにはあっと驚かされた。やられた。生粋のミステリーファンはもうこれだけでおなかいっぱいになれるんだろうな。いやこの程度では真のミステリーファンは満足しないのかもしれないが、私は素直に感心した。とても見事な遊び心だと思う。多分ミステリーファンだけがニヤリと出来る要素もいっぱいあったのだろうけど、残念ながら私には多分一部しか楽しめなかっただろう。

このシリーズと西尾維新という作家の作品でしばらくは楽しめそうだと、ひさびさにとても大きな期待が膨らんでいる。

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