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太平洋戦争の実相

瀬島 龍三 (PHP文庫)

最高(50点)
2005年7月29日
ひっちぃ

元大本営陸軍参謀、第二次世界大戦で東南アジアでの作戦に携わり、終戦間際に関東軍に転出して終戦後の東京裁判で検察側の証人として疑惑の役割をし、その後は伊藤忠商事の会長にまで登りつめた瀬島龍三が、ハーバード大学に招かれて開戦までの日本の政治状況を専門家数十人に講義した内容をまとめた本。

正直私には全般的に消化不良だったが、海外の専門家に説明しようとしているという本書独特の目的により、あとがきで渡部昇一が言っているように、「御前会議」などの用語の意味が簡潔に逐一説明されており、分かりやすくて類書とは異なった点を見せている。

結局最後はハル・ノートになるわけだが、そういうメジャーな部分にはそれほど記述を割いていない。講演した相手がその筋の研究者たちなのだから当然といえば当然か。一方で、日本の立場についての説明は、平易ながら説得力のある語り口だ。

ハル・ノートについては私は一冊本を読んでいるはずなのだが、きれいさっぱり忘れていることに驚いた。しょせん趣味の読書とはこんなものである。

瀬島さんがこの講演で何を一番言いたかったのかというと、日本の立場からすると開戦やむなしであったと。その理由として、明治維新以後、近代化を成し遂げて自存自衛の努力で築き上げてきた日本の帝国主義国家としての歩みを、アメリカに一方的に否定されてアジアの小国へと転落させようという要求を呑むことは出来なかった、ということを言っている。

ロシアの侵略、中国・韓国の無力、それゆえに日本が朝鮮半島と満州を取らなければならなかったこと。それを放棄せよというアメリカの圧力に、日本の指導者層が無念ながらも開戦を選んだこと。その流れを簡潔に、日本の意志決定の仕組みから各々の心の揺れまでを丁寧に、よくここまでまとめたものだと思う。

しかもこの講演が1972年だったというから驚かされる。作者の瀬島龍三には、作家の保坂正康から追及されている疑惑があり、どうやら墓場まで持っていくつもりのようだが、一方でこのような海外公演で自らの責任を果たそうという姿勢は素晴らしい。

小林よしのりによる第二次世界大戦での日本の再評価ブームなどがあり、なぜ日本は戦争を選んだのかを多くの人々が論じたが、その中でも本書は海外の研究者向けの内容だけあって、理路整然としており感情的なものが排されていて純粋に政治と外交だけを語っており、もっとも優れた論の一つだと私は思う。

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